常秋九十九折

主に恋愛ゲームのプレイ感想

イハナシの魔女 感想

【タイトル】イハナシの魔女(Switch版)
【発売日 】2023年4月28日
【メーカー】KEMCO
【シナリオ】森
【原 画 】むじ

 

【個人的評価】79/100点
【総プレイ時間】約8時間
【攻略おすすめ順】なし、一本道です

 

キービジュアルの絵柄がかなり好みだったので、存在を知ってすぐ予約しました。

ボタンの配置が一般的なCSテキストアドベンチャーと少し異なるので最初は戸惑いましたが、すぐ慣れました。

システムはバックログからのシーンジャンプ、前後のチャプターまでのシーンジャンプ機能があると個人的には嬉しかったです。

 

 

 

まずネタバレなし感想です。

 

王道ボーイミーツガールだった最高!!🙌

ボーイミーツガールが好きな方は買って損なしかと。

サクッとプレイできて中身しっかりでおまけ要素も充実、お得感満載です。

値段分の価値はあるので、もしこの記事を読んでいて未プレイならすぐにソフトを購入することをおすすめします。

選択肢も出現しますが「セーブが必要ない選択肢」しか出ないので、攻略には困りません。

見て分かるイラストの良さだけでなく、シナリオの良さはCS移植されていることで証明されていますし、購入を迷っているなら思い切って買って早くこのシナリオに触れて頂きたいという気持ちでいっぱいです。良かった本当に。

ーー販促ここまでーー

 

実は過去にPS Vitaで購入したインディーゲームに苦い思い出があり有料インディーゲームを避けてきたのですが、評価の高さと前述の絵柄の味わい深さ、あとケムコさんへの個人的な信頼感で予約を決意。

夏ゲーっぽかったので酷暑の今こそやるべきかとプレイ開始しました。

 

個人的にテキストアドベンチャーをプレイする際の楽しみの1つが「綺麗な背景イラストのスクショを撮ること」なので、写真を加工した背景でそれが出来なかったのは少し残念。

ですが全背景新たに描き起こすわけにもいかないでしょうし、立ち絵との違和感も無いので問題はないです。それに今作はモデルとなった土地があるので、写真背景にする理由や必要性もあり。

シナリオと背景画像の整合性の無さが目立つ部分も少しだけありましたが、これは仕方ないかと。

 

モバゲー版「アイドルマスターシンデレラガールズ」のパロディがあったのにはホロリとしてしまいました。円満だったけど2023年3月30日にサービス終了してしまっているんだ……🥲

 

演出も楽しいものが多く、ライトなテキストと相まって軽やかなプレイ感で楽しめました。ただ殴るような音のSEが多々入るので、最初は(実際に殴っているのか?)と混乱しましたが、ほとんどがボイスの無いキャラクターの口調の勢いを表したものでした。

ボイスのあるメインキャラクターはみんな、声優さんの声質や演技がキャラクターを引き立てて魅力的に仕上がっています。キャスティングがぴったり。

 

プロローグ含め4つの章で成り立っていますが、2つめの章3つめの章現実と地続きの普遍性のあるテーマで描かれていると感じました。ラストの章は大きく物語が動き、普遍性のあるテーマも内包しつつ伝奇的展開に。

3つめの章はプレイしながら思わず泣いてしまいました。この章に限らず、どの章にも胸に迫るシーンがあります。

 

舞台となった沖縄のことを恥ずかしながら、毎年夏にテレビで放送する戦争番組の内容程度でしか知りませんでした。御嶽も神聖な場所らしいというぼんやりした認識しか無かったのですが、写真背景と分かりやすい説明で世界観が分からず困ることはありませんでした。

 

辛い展開もある今作ですが、乗り越えた先のエンディングは爽やかで心から登場人物たちを祝福できる幸せなものでした。本当にその幸せを掴み取れて良かった……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからネタバレあり感想です。未プレイの方は閲覧非推奨です。

 

アカリの章では「継ぐものがある家に生まれること」「自身の夢」「親から子への愛」が描かれていて、使命がありながらも夢を諦めないアカリの姿にプレイしているこっちが励まされてしまいました。

田舎に限らない話ですが、家から望まれた在り方しか許されない子どもは今もいるし、それで苦しんでいる人たちも多くいることと思います。

〝田舎の名家に生まれる〟ということは便利な面もないわけではありませんが、上記の苦しみも背負うことになり、正直かなり辛い立場でもあると常々思っています。そして在り方を自分で決められない辛苦は当人でなければ分からない。

しかしアカリは名家の生まれにあぐらをかかず、思考放棄せず、夢を自力で掴み取ろうと苦しみあがいて見事夢を叶えます。その姿こそゲーム内に限らず努力を見てきた人間へのエールそのものでした。

アカリの両親が実はちゃんとアカリのことを愛して守ろうとしていたことも嬉しかった。赤摘家はちゃんと「家族」だったよ……

 

紬の章では「現状の上手くいかなさ」「家族への後悔」が描かれていて、こう、もう、泣いた😭

必死になればなるほど、どの仕事も長続きせずクビになってしまう負のループから抜け出せない紬。焦りと惨めさばかりがつのるであろうその姿に自分を重ねることは容易でした。

そして紬がすがっていたノートの真実。大きな恩を受けたのに何も返せないまま亡くなってしまった祖母への申し訳なさ、情けなさ。そこから生まれる漠然とした「立派な人間にならなければならない」という強迫観念。「自分のことかな?」と思うほど紬の心理に同調していきました。

なのでリルゥにより紬が自縄自縛から解放されたシーンでは涙を止められませんでした。

死者との対話はイタコなどを代表として、多くの人々が長年望み、行おうとされてきた行為です。身近な存在を亡くし「あの時こうしていたら」「もっと言葉を交わしていたら」「せめてもう一度だけ会いたい」と後悔を抱えた人たちがこの世にいなかったためしはないでしょう。

そんな人たちにとって、死者から「あなたが幸せであればそれでいい」と言ってもらえたら、それは何にも勝り救われる言葉ではないでしょうか。

紬だけでなくこちらも救われたような気がして、これからの人生を亡くしてしまった大切な人の為にも大切にしていこうと素直に思えました。

祖母という立場なのも上手いと感じました。心理的な距離が両親より遠くなりがちな分、プレイヤー側でも祖父母が亡くなった時に「もっと話しておけばよかった」「もっと真摯に相手になっていればよかった」「もっと会いに行けばよかった」といった後悔や後ろめたさを感じた方は多いのではと考えます。自分はまさにこれだったので気持ちが入り込みやすく、余計に紬が救われたシーンでは心を動かされました。

まぁその、実は◯◯じゃありませんでした……という事実がのちに明らかになるのですが、この時には知るよしもなく。

 

そしてついにリルゥの章。今までとは違いファンタジーな内容が展開されていきます。しかし浮ついているかと言うとそうではなく、しっかり説得力のある描写で今までに張られた伏線がちゃんと回収されていくのは見事でした。

段々とリルゥの状態が悪化していく中、それでも光と2人なんとか生きていこうとしますが、この2人の状況では上手くいくはずもなく。ここからは辛い展開が続き、どう着地するのかハラハラしながらプレイしていました。

「恋人がいくばくもない余命を突きつけられ、なんとかしようと足掻くもどうしようもなく、周囲の人たちも大切なその2人の為に力を尽くすがどうにもならない」こう書くと創作物ではよくあるストーリーですが、その先は今作のオリジナリティが光りつつ王道ど真ん中な展開で、切なさや温かさに爽快感まで感情のジェットコースターでした。

本当になんて爽やかな幸せに溢れるエンディングなんだ……テーマソングもじんわりしみる素敵な曲で大満足なラストでした。

リルゥが異国情緒溢れる見た目や魔術を使う反面、ぱっと見は普通に見える光も実は人からは見えない苦しみを抱えていたりとどのキャラクターもギャップがある故の厚みがあるの、ライターさんの筆力をまざまざと感じて心地よかったです。厚みのある物語は良いものだ。

本編クリアして終わりかと思いきや、第二部と言っても過言ではないおまけ要素が開いた時はあまりの量に嬉しい悲鳴でした。

本編を補完するシナリオに設定資料や裏話までモリモリで、Appendも1つ1つの話は短いながら無駄のない構成でプレイヤーが見たかったものを見せてくれたなと。

面白さのあまり一気にプレイしてしまったので読み飛ばしてしまった所もあるかもしれないのですが、光の眼の病気(?)の情報はもう少し欲しかった……本当にちょっとで良いのであると納得感が増した気がします。

あと小さなことなのですが「自棄」を「やけ」とは読ませず「じき」のルビだったのは「やけ」と「じき」の意味を厳密に分けているから、なのでしょうか。「自棄はやけ読み」派だったので出てくるたび(や……じゃなくて じき)と読み直していました。

 

イラストは良いけどインディーゲームだからなぁ、と身構えてプレイ開始した時には思いもよらないハイクオリティなゲームでした。UIがちゃんと見やすくオシャレなの、地味にポイント高いです。やっぱり「ゼロ年代初頭のゲームかな???」となるUIよりオシャレかつ見やすいものの方がストレス少ないですものね。

 

それにしてもラストの壁越しのシーン好きだったなぁ……特に指輪のシーンがグッッッと来ました。世界を救うのが「◯」なの、くさくなりがちですがくさくない塩梅なのも上手い。

異文化交流王道ボーイミーツガール夏物語は良いものだ🙌